あーあ・・これから、どうしよう。
山崎さんと一緒に住んでるアパートを飛び出して、僕は走り続けた。
気が付くと、けっこう遠くまで来ていて・・自分でもびっくりした。
後ろから追い掛けてきていた山崎さんも、もういない。
(あ、僕・・独りぼっちじゃん・・)
すでに日はとっぷり暮れていて、辺りは暗く静かになっていた。
・・なんだか、急に物凄い孤独感に襲われる。自分で勝手に飛び出してきたくせに、アパートへ今すぐ帰りたいな・・と強く思った。
(こんな短気で我が儘な弟・・・嫌だろうな。血の繋がりもないし)
結局・・行く宛てもなく、暗い道を1人でとぼとぼ歩いていると、全く人気のない寂れた小さな公園を発見した。
吸い寄せられるように、僕はその公園に入り・・ブランコに乗った。
少し、座って考えたかった。
山崎さんのこと。
ちょっとエッチなキスをされたこと。
これからどうしたらいいのか、ということ。
考えるべきことが有りすぎて、僕は頭がパンクしてしまいそうだった。
1人で小さい子みたいにブランコをゆらゆらさせながら、僕はゆっくりと頭の中で考えを巡らせてみた。
まず・・山崎さんは本当に、僕をからかうのが好きなんだろう。僕は頭が悪いから、きっと僕のおかしな反応が楽しいんだと思う。
そうでもないと・・いきなり名前で呼んでみろなんて言ったり、唾液交換みたいな・・ああいうキスをしたりなんか、しないと思うし。
そういう事に免疫のない僕の反応が、面白いんだ。そうに決まってる。山崎さんは凄く格好良いし、女の人達がほっとくわけないから・・ああいうキスなんか、きっと何十回もしているんだろうけど。
僕は・・僕には、山崎さんだけなのに。
ひどい。
―人には絶対言えないけど、僕は幼い頃から山崎さんを“男の人”として好きだった。いつ頃からか覚えてないけど・・明るくて頼りがいがあって、とても優しい山崎さんが・・僕は誰より好きだった。
でも・・この気持ちは、ずっと胸にしまっておくつもりだった。
だって僕は、山崎さんの“弟”というポジションで充分だったから。
山崎さんの隣には、やっぱり女の人が似合うし・・いつか彼女を紹介されたりしたら、ちゃんと『おめでとう』って言うつもりだった。
“家族”という揺るぎない立場で、いつまでも山崎さんの傍にいたかった。それに、年に何回か話をできるだけで、僕は満足してた。
・・それ以上は何も望んでいなかったのに、急にこうして同居できることになって・・夢みたいだし、凄く嬉しかった。
なのに・・。
・・・・キス・・するなんて。
それも、僕をからかう為に。
・・好きだからこそ、キスなんかして欲しくなかった。山崎さんにはとっては何十回のうちの一回かもしれないけど、僕にとっては・・最初で最後の一回かもしれないのに。
もう、一緒には暮らせないかも。
でも・・行くとこ、ないや。
これからどうしたらいいんだろう・・と途方に暮れながら、僕はいつまでもブランコを漕ぎ続けた。